大阪大学と岡山大学の共同研究成果です
<研究成果のポイント>
- 抗生物質アムホテリシンB(AmB)が真菌膜中で形成するイオンチャネルの構造を解明
- AmBは、強い抗真菌作用の一方で、腎毒性などの強い副作用を併発する課題があった
- より効率的で副作用の少ない薬の開発につながる
◆概 要
大阪大学大学院理学研究科の梅川雄一助教と山本智也特任研究員(現・理化学研究所基礎科学特別研究員)らは、岡山大学異分野基礎科学研究所の篠田渉教授らとの共同研究により、抗生物質であるアムホテリシンB(AmB、図1)が真菌の細胞膜で形成するイオンチャンネル複合体の構造を明らかにしました。
この化合物は優れた抗真菌活性をもつことから、頼りになる医薬品として長年使われています。最近の例では、インドで多くの新型コロナウイルス感染者に認められた致死性のムコール症を治療するために広く用いられました。
強い抗真菌作用の一方で、腎毒性などの強い副作用を併発することが長年問題視されてきました。この問題の解決には、AmBの活性発現のメカニズムを明らかにすることが必要です。今回、共同研究グループは、有機合成化学と固体NMR測定、分子動力学計算を組み合わせることで、真菌の細胞膜を模倣した環境でAmBが形成するイオンチャネル構造を明らかにしました。この成果によって、この古いがよく効く医薬品を、新しい薬として蘇らせることができると期待されます。
本研究成果は、米国科学誌「Science Advances」に掲載されるに先立ち、2022年6月18日(土)付けでオンライン版として公開されました。
図1. AmBとErgの化学構造(上)と、これらが真菌細胞膜中で形成するイオンチャネル構造の模式図(下)。AmBは親水的な部分(ピンク色)と疎水的な部分(黄色)を併せ持ち、親水部分を内側にして複数分子が集まることで、細胞膜に親水的な穴を形成する。この穴をカリウムイオンやナトリウムイオン(青色)が透過することで細胞のイオンバランスが崩れ、真菌を死滅させる。また、外側に位置する疎水的な部分で、Erg(水色)やリン脂質と相互作用することで、集合体を安定化する。
図2. (A)複数のAmB標識体を用いて固体NMR測定を行い、原子間の距離を測定した(図中の矢印の位置で距離を算出した)。(B)原子間距離情報を基にAmB分子の配置を考え(上)、最も適した構造を導いた(下)。内部は空洞になっており、イオンの通り道がある。(C)固体NMR測定から得られた構造を基に分子動力学計算を行った(上:チャネルを真上から見た図。下:チャネルを横から見た図)
◆論文情報
タイトル:“Amphotericin B Assembles into Seven-Molecule Ion Channels: An NMR and Molecular Dynamics Study”
著 者 名:Y. Umegawa, T. Yamamoto, M. Dixit, K. Funahashi, S. Seo, Y. Nakagawa, T. Suzuki, S. Matsuoka, H. Tsuchikawa, S. Hanashima, T. Oishi, N. Matsumori, W. Shinoda and M. Murata
掲 載 誌:Science Advances
D O I:https://doi.org/10.1126/sciadv.abo2658
◆詳しいプレスリリースについて
抗生物質が効く仕組みを解明―アムホテリシンBが真菌細胞膜に形成するチャネルの詳細構造―
https://www.okayama-u.ac.jp/up_load_files/press_r4/press20220618-1.pdf
◆参 考
・岡山大学 異分野基礎科学研究所
http://www.riis.okayama-u.ac.jp/
◆本件お問い合わせ先
<研究に関して>
大阪大学 大学院理学研究科 助教 梅川雄一(うめがわ ゆういち)
TEL:06-6850-5789
FAX:06-6850-5774
岡山大学 異分野基礎科学研究所 教授 篠田 渉(しのだ わたる)
TEL:086-251-7854
FAX:086-251-7699
http://theocomp.chem.okayama-u.ac.jp/
<広報・報道に関して>
大阪大学 理学研究科 庶務係
TEL:06-6850-5280
FAX:06-6850-5288
岡山大学 総務・企画部 広報課
TEL:086-251-7292
<岡山大学の産学官連携などに関するお問い合わせ先>
岡山大学研究推進機構 産学官連携本部
〒700-8530 岡山県岡山市北区津島中1-1-1 岡山大学津島キャンパス 本部棟1階
TEL:086-251-8463
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