岡山大学は7月29日、岡山大学の強みのひとつである医療系分野の研究成果について、革新的な技術に橋渡すことのできる基礎研究や臨床現場、医療イノベーションなどに結びつく成果などを英語で世界に情報発信するWebレター「Okayama University Medical Research Updates(OU-MRU)」のVol.70を発行しました。
2012年より岡山大学では、研究成果や知的財産、技術移転活動などを英語で情報発信するWebマガジン「Okayama University e-Bulletin」を年3~4回発行。世界の大学・研究機関の研究者やマスコミ関係者などにニュースやトピックスを交えて配信し、岡山大学の海外への情報発信の強化と国際的知名度の向上などを推進しています。
OU-MRUは、e-Bulletinの姉妹誌として、岡山大学の強みある医療系分野とその融合分野などの更なる増強と本学研究者が同分野で発表したイノベーティブな研究成果を世界にタイムリーに発信するために発行しています。
本号では、大学院ヘルスシステム統合科学研究科の松尾俊彦准教授と大学院自然科学研究科(工学系)高分子材料学研究室の内田哲也准教授らの医工連携研究が進めている、岡山大学方式人工網膜「OURePTM」について、ラット変性網膜に活動電位を発生させることを初めて示した研究成果について紹介しています。
岡山大学方式の人工網膜OURePTMは、色素結合薄膜型の人工網膜であり、2013年にアメリカで販売開始されたカメラ撮像・電極アレイ方式とはまったく異なる技術の“世界初の新方式”の人工網膜です。現在、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)と薬事戦略相談を積み重ね、実用化を目指して開発を進めています。
今回、松尾准教授らはヒトの網膜色素変性と同じ網膜変性を来すラットから変性した網膜組織を取り出し、電極シャーレに置いて神経細胞の活動電位を記録する方法を確立しました。また、光電変換色素を結合したポリエチレン薄膜の人工網膜を、摘出したラットの変性網膜組織の上に乗せて光を当てると、神経細胞の活動電位を発生させることを初めて示しました。
これらの研究成果は、松尾准教授らの人工網膜の有効性を改めて示し、医師主導治験の実施に向けた確実な階段をまた一歩上がりました。
岡山大学は、2013年8月に文部科学省がわが国のさらなる大学研究力向上や国際的な研究競争力強化等のために全国の大学・研究機関から選定した、「研究大学強化促進事業」の選定大学(国内19大学)です。世界で研究の量、質ともに存在感を示す「リサーチ・ユニバーシティ(研究大学):岡山大学」の構築のため、強みある分野の国際的な情報発信を力強く推進しています。今後も強みある医療系と異分野融合から生み出される成果を社会や医療現場が求める革新的技術、健康維持増進へより早く届けられるように研究開発を推進していきます。
なおOU-MRUは、文部科学省「研究大学強化促進事業」の一環として実施されています。
Okayama University Medical Research Updates(OU-MRU) Vol.70:Prosthetics for Retinal Stimulation
<Back Issues:Vol.62~Vol.69>
Vol.62:3D tissue model offers insights into treating pancreatic cancer (大学院ヘルスシステム統合科学研究科 狩野光伸教授&大学院医歯薬学総合研究科(薬学系)田中啓祥助教)
Vol.63:Promising biomarker for vascular disease relapse revealed (大学院医歯薬学総合研究科(医学系)渡辺晴樹助教、佐田憲映准教授)
Vol.64:Inflammation in the brain enhances the side-effects of hypnotic medication (岡山大学病院薬剤部 北村佳久准教授)
Vol.65:Game changer: How do bacteria play Tag? (大学院環境生命科学研究科(農学系)田村隆教授)
Vol.66:Is too much protein a bad thing? (異分野融合先端研究コア 守屋央朗准教授)
Vol.67:Technology to rapidly detect cancer markers for cancer diagnosis (大学院ヘルスシステム統合科学研究科 紀和利彦准教授)
Vol.68:Improving the diagnosis of pancreatic cancer (大学院医歯薬学総合研究科(医学系)岡田裕之教授、松本和幸助教)
Vol.69:Early Gastric Cancer Endoscopic Diagnosis System Using Artificial Intelligence (大学院医歯薬学総合研究科(医学系)河原祥朗教授)
<参考>
・「Okayama University Medical Research Updates(OU-MRU)」バックナンバー
・岡山大学国際Webマガジン「Okayama University e-Bulletin」
【本件問い合わせ先】
総務部 広報課
TEL:086-251-7293
E-mail:www-adm@adm.okayama-u.ac.jp
- 酸化グラフェンに光を照射すると酸素が除去されるメカニズムを初めて明らかにしました。
- 光照射による物質の変化を1兆分の1秒の時間で追跡できる複数の計測手法と理論計算を駆使し、メカニズムの解明につなげました。
- センサーや蓄電池などのデバイス応用からドラッグデリバリーなどのバイオ応用まで、幅広く役立つ、新しい機能を持った炭素二次元シートの合成につながります。
筑波大学数理物質系(前所属・岡山大学大学院自然科学研究科)の羽田真毅准教授、岡山大学異分野融合先端研究コアの仁科勇太研究教授、九州大学大学院理学研究院の恩田健教授らは共同で、酸化グラフェンに光を照射することにより酸素が除去されるメカニズムを解明することに成功しました。
酸化グラフェンは、次世代材料として期待されている炭素二次元シート(炭素からなるナノメートルオーダーの厚みの材料)の原料物質です。安価で大量に入手しやすい黒鉛から合成できます。
しかし、酸化グラフェンはそのままでは電気を流さないため、電子デバイスなどに応用する際には、酸素を適切に除去する必要があります。除去には、光の照射や加熱が用いられますが、そのメカニズムは十分に解明されておらず、望みの機能を持った炭素二次元シートを作製する方法は定まっていませんでした。
加熱による酸素除去では、一酸化炭素や二酸化炭素の形で酸素が除去されるような複雑な化学反応が進行し、特定の酸素原子のみを除去することはできません。一方、光照射による酸素除去は、酸化グラフェン中にさまざまな形で結合している酸素原子のうち、特定の結合をしている酸素原子のみが除去されることが本研究により明らかになりました。このような光による選択的な酸素除去を活用すれば、望みの構造を持つ炭素二次元シートを効率的に合成することにつながると期待されます。
本研究成果は、米国東部標準時の8月27日午前0時(日本時間同日午後2時)付で、アメリカ化学会の学術誌「ACS Nano」で公開されました。
図1:黒鉛(左)と酸化グラフェン(中央)とグラフェン(右)の構造。黒鉛から酸化グラフェンが合成され、酸化グラフェンから酸素が除去されるとグラフェンに近い構造へと変化します。
■論文情報
論文名:Selective Reduction Mechanism of Graphene Oxide Driven by the Photon Mode , versus the Thermal Mode掲載紙:ACS Nano
著 者:羽田真毅*、宮田潔志、大村訓史、嵐田雄介、一柳光平、片山郁文、鈴木貴之、陳望、溝手翔太、佐和孝嘉、横谷尚睦、瀬木利夫、松尾二郎、徳永智春、伊東千尋、鶴田健二、深谷亮、野澤俊介、足立伸一、武田淳、恩田健*、腰原伸也、林靖彦、仁科勇太*D O I:10.1021/acsnano.9b03060
<詳しい研究内容について>
光が創る新しい炭素材料-酸化グラフェンの光による酸素除去メカニズムを解明-
<お問い合わせ>
羽田 真毅(はだ まさき)
筑波大学 数理物質系
エネルギー物質科学研究センター(准教授)
〒305-8572 茨城県つくば市天王台1-1-1
Tel: 029-853-5289
仁科 勇太(にしな ゆうた)
岡山大学 異分野融合先端研究コア(研究教授)
〒700-8530 岡山県岡山市北区津島中3-1-1
Tel: 086-251-8718
恩田 健(おんだ けん)
九州大学大学院理学研究院(教授)
〒819-0395 福岡県福岡市西区元岡744
Tel: 092-802-4170