岡山大学病院バイオバンク
新たなヘルスイノベーション創出を担う岡大バイオバンクの挑戦
一人ひとりの多様な幸せ(well-being)が実現できる社会のために岡山大学が進めるエコシステムの新機軸
◆医療の発展のための研究開発基盤として:岡大バイオバンク
岡山大学病院バイオバンク(岡大バイオバンク)は、医学研究や新薬開発を支援するための研究基盤として、2015年4月に岡山大学病院内に設立されたバイオバンク「クリニカルバイオバンク」だ。
バイオバンクとは、医療機関を受診した患者への説明と同意をもとに、その患者から採取したヒト臨床検体(血液、尿、組織など)及びカルテ上の臨床情報を収集し、匿名化など適切な情報管理を含む検体の保管を行う、言わばヒトの「生」とそれに紐づいた「記録(データベース)」を有する‟銀行(バンク)”である。
岡大バイオバンクは、患者や市民の健康を推進する多様な可能性を支援するために、大学・公的研究機関における基礎研究や臨床研究での利用はもちろんのこと、医薬品などの具体的な製品開発に貢献するために産業界での研究開発にも利用しやすいバイオバンクを目指して活動している。
岡大バイオバンクの特徴としては、下記の3点が挙げられる。
(1)大学病院内にあるので生体試料の品質が高い
岡大バイオバンクは岡山大学病院に併設されており、採取から保管までの時間を短く保つことができるメリットがある。処理にかかった時間は記録を残し、生体試料の品質を保つよう努めている。品質の高さはそれを使う側のメリットを大きく左右するため、大学病院内という特徴は貴重である。
(2)生体試料に付随する臨床情報が豊富
岡大バイオバンクは、大学病院の情報システム(電子カルテ・検査システムなど)と連携しているため、臨床検査結果や投薬記録などの豊富な診療情報や解析情報を提供することができ、より精度の高い医学研究や新薬開発などに繋げることができる。
(3)民間企業へ提供することを前提として整備
患者への同意取得の際に、産業界での利用まで含めた幅広い目的に対して理解を頂いており、また所有権・知的財産権(知財)を放棄して頂いている。そのため、岡大バイオバンクが知的財産権を主張しない形式での提供(分譲)も可能であるため、産業界なども活動に使いやすい形となっている。
もちろん生体からの試料などはヒトに関係するものであるため、岡山大学病院の倫理的な管理のみならず、産業界への提供については利益相反などのチェックする利益相反マネジメント委員会などの承認を得て運営されている。
さらに試料を採取し保存するまでの流れを迅速かつ効率的に処理するための体制作りを設立当初から重点的に実施、高い品質管理を基に検体を保管する流れを構築し、これが提供を受ける研究者や産業界が安心して岡大バイオバンクを利用することにつながる。
これら質の高いクリニカルバイオバンクの運営により、2021年2月現在、のべ2万症例を越える検体を保管している。これらの検体は、産業界の中でも製薬企業や体外診断薬メーカーなどを中心として検体利用の実績を数多く有し、私たちの医療を支える医学研究や新薬開発などを力強くサポートしている。
<参考:提供試料を用いた研究と関連研究業績>
http://biobank.ccsv.okayama-u.ac.jp/information/
◆岡大バイオバンクと共創するARO組織「岡山大学病院新医療研究開発センター」と研究大学としての岡山大学
大学病院内に併設されているクリニカルバイオバンクだけあり、岡大バイオバンクには歯科領域を含めてさまざまな分野を専門とする医療従事者らが参加している。そして医療従事者だけではなく、解析や保管などを行う高度な知識と技能を有する専門家やコーディネーター、倫理スタッフ、事務職員など、さまざまな職種の専門家らがチームを組んで運営に当たっている。
さらに岡大バイオバンクの活動を強力に推進する仕組みのひとつとして、院内にある岡山大学病院新医療研究開発センターと一体となって運営されている点にある。同センターは、「Academic Research Organization(ARO)」と呼ばれ、大学・大学病院の機能を使って医薬品や医療機器などの臨床研究・非臨床研究を支援する組織のことである。
このARO組織は医療や医薬品に係る数多く、かつ複雑な規制などを把握し、かつ産業界の動向にも精通している、言わばアカデミアと産業界を橋渡す重要な機能を有する組織だ。岡大バイオバンクで保管されている試料や情報を如何に社会に役立てて行くか、それはAROの機能が大きな役割を担っている。
岡大バイオバンクを支える様々な分野の人材
岡山大学は歴史的に岡山藩医学館を起源に第三高等中学校医学部、岡山医科大学(旧制大学)などと、医療系の源流を組んでおり、中国・四国地域に幅広いネットワークを持っている。わが国最大級の「中央西日本臨床研究コンソーシアム」など、さまざまなプラットフォームを有し、それを利活用した教育研究、高度専門人材の育成を進め、それが地域に還元されるというエコシステムを長い歴史の中で構築されている。
このエコシステムの中に、新しい要素として岡大バイオバンクが加わり、従来のエコシステムよりも効果的で新たな価値を生み出す仕組み、共創活動を精力的に進めている。この新しいエコシステムの構築には、研究大学としての総合大学:岡山大学の存在も大きい。
岡山大学ではスピード感を持って研究力強化や産学活動活性化のための制度・構造改革を進めている。また「0→1」を生み出す産学共創活動もwell-beingやヘルスケアなどをキーワードに進められている。改革を担うひとりである佐藤法仁副理事(研究・産学共創担当)・URAは、「診療を中心とした大学病院の活動は、国立大学法人の経営を安定させるための重要な活動のひとつではあるが、現在のコロナ禍でも明らかのように診療報酬だけに重点を置くと経営は安定しない。診療を中心に置きつつも、診療報酬以外での取組、‟新規事業”とも言えるヘルスイノベーション創出の種を大学本体とともに病院内に育成することで多様な収入源を確保することができ、これがエコシステムを好循環させる潤滑油となる。岡大バイオバンクの取組はその要のひとつであり、社会においても、また国立大学法人にとっても新たな価値を生み出すものだ」と語る。つまり岡大バイオバンクの取組は、新たな医療サービスの価値を生み出すだけではなく、国立大学法人経営における大学病院の「新たな事業」への先導的な挑戦でもあり、その取組には産学官などの多くのステークホルダーらとの連携が重要である。
岡大バイオバンクと共創するARO組織「岡山大学病院新医療研究開発センター」と研究大学としての総合大学「岡山大学」が三位一体となり、新たなエコシステムを生み出そうとしている。
◆岡大バイオバンクが貫く現場主義
岡大バイオバンクは、その活動のひとつの柱として「現場主義」を置いている。医療の現場にあるクリニカルバイオバンクという点もあるが、何よりも試料を提供頂ける患者の想いやそれを活かして行きたいと行動する現場の医療従事者らの想いに直に触れることで、バイオバンクの運営を絶えず見直し、改善することで、患者にとって安心して提供して頂けること、そして提供して頂いた試料とデータを医療従事者や産業界に役立ててもらえる仕組みを作りあげることができる。
特に産業界は製品化などでおいて、バイオバンクから得た試料やデータについて、提供者である患者の同意の書面内容や知財のあり方などについてとても気を使う。企業としては当然のことであり、それに十分に答えられるように岡大バイオバンクでは組織を整えている。2015年の岡大バイオバンク設立以降、産業界などからのヒアリングやアドバイスを数多く重ね、海外でも通用する運用体制を整えて来た。これも現場主義を貫く岡大バイオバンクだからこその活動のひとつだ。
◆岡大バイオバンクの未来を支える若き人材
岡大バイオバンクは、大都市圏ではなく、岡山という地方都市にある決して大規模な組織とは言えないバイオバンクだ。だが、ARO組織である岡山大学病院新医療研究開発センターとの共創や病院経営層と大学本体などからの理解と支援により、教育研究活動とともに活発に活動している。そして先に述べたように、のべ2万症例を越える検体を保管し、数多くの研究実績や産業界への提供を行って来た。
岡大バイオバンクとARO組織である岡山大学病院新医療研究開発センターの関係
「保管された検体の提供をしているほか、岡山大学病院に併設されたバイオバンクという特徴を活かし、保管がない検体については前向きに採取することも可能。この場合には特殊な検体の処理などの要望にも対応できる。また、前向き採取を行う場合には原則として共同研究となるが、保管検体の提供の場合にはMTA(試料提供契約)での提供が可能。つまり、共同研究契約を必要とせずに提供が可能であり、産業界が岡大バイオバンクを利用しやすい形を整えている。
さらに特定の疾患に関する専門的な知見を要望される場合には、さまざまな高度な専門人材を有する岡山大学病院の各診療科の専門医師をご紹介させて頂くことも可能だ」、そう答えるのは岡大バイオバンク設置当時から運用に係る森田瑞樹教授だ。
さらに「様々な解析機器を保有しており、それを扱う専門家もおり、検体を解析したデータとして提供させて頂くことも可能だ。岡大バイオバンクが持つ多くの機器を活用し、研究者や産業界が欲する形で解析することができる。これは医療系だけではなく、11学部8研究科3研究所を有するわが国有数の総合大学かつ、研究大学である岡山大学というフィールドがあることで、多様な最先端の機器と高度な専門人材の支援を受けることができる。どんな些細なことでもご相談頂きたい」、そう答える冨田秀太准教授も岡大バイオバンク設置当時から運用に係り、生物情報を扱う高度専門人材であるバイオインフォマティシャンのひとりとして活躍してきた。
一方、ARO機能を有する岡山大学病院新医療研究開発センターの櫻井淳准教授は、「岡山大学病院は臨床研究中核病院として高度な機能と人材を有する医療機関であり、その中で医師主導治験を行うことのできる体制が整備されている。岡大バイオバンクが支える研究者や産業界での基礎研究、研究シーズ育成を臨床研究まで一気通貫、ワンフロアで実施できるのはバイオバンクとARO組織を同じ屋根の下に持ち連携体制が密な岡山大学病院ならではの強みであり、この強みが次の新しい医療サービスを生み出す苗床にもなっている」と語る。
森田教授も冨田准教授、櫻井准教授も若手研究者であり、岡大バイオバンクと新医療研究開発センターとともにキャリアを積み、社会に新しい医療サービスの価値を提供するために日夜精力的に奔走している。いまその活動の取組に多くの注目が集まる。
(左より)森田瑞樹教授、冨田秀太准教授、櫻井淳准教授
◆参 考
・岡大バイオバンク
http://biobank.ccsv.okayama-u.ac.jp/
・岡山大学病院新医療研究開発センター
http://shin-iryo.hospital.okayama-u.ac.jp/
・岡山大学病院
https://www.okayama-u.ac.jp/user/hospital/
・岡山大学研究推進機構
https://www.orsd.okayama-u.ac.jp/
◆お問い合わせ先
岡山大学病院バイオバンク事務局
〒700-8668 岡山県岡山市北区鹿田町2-5-1
TEL: 086-235-6029
E-mail:biobank◎okayama-u.ac.jp
※ ◎を@に置き換えて下さい
http://biobank.ccsv.okayama-u.ac.jp
岡山大学病院(岡山市北区)
国立大学法人岡山大学は、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」を支援しています。また、政府の第1回「ジャパンSDGsアワード」特別賞を受賞しています
0 件のコメント:
コメントを投稿