岡山大学大学院医歯薬学総合研究科(薬)の有元佐賀惠准教授(医薬品安全性学)らの研究グループは、高感度検出系を用いてピロリ菌成分が突然変異を引き起こすこと、他の発がん物質の変異原性を増強することを発見しました。本研究成果は3月24日、英国の科学誌『Mutagenesis』オンライン版で公開されました。
がん発症とピロリ菌感染は強い相関があること、すべてのがん細胞のDNAには突然変異があることは知られています。本研究成果によって、胃上皮細胞変異と胃がん発症のメカニズムの解明が進めば、突然変異を阻害する薬の開発が見込まれ、胃がん予防につながると期待されます。
本学大学院医歯薬学総合研究科(薬)の有元准教授、岡山理科大学、京都府立医科大学、松下記念病院の共同研究グループは、ピロリ菌に感染したスナネズミで、通常は胃がんを起こさない低濃度のアルキル化剤系発がん物質投与でも胃発がんを起こすという報告があることに着目。突然変異を高感度に検出する方法を用いて、ピロリ菌成分を加えたネズミチフス菌、ヒト由来の培養細胞で突然変異が起こることを発見しました。
さらに、ピロリ菌成分とアルキル化剤系発がん物質の両方を加えた場合、アルキル化剤系発がん物質を単体で加えた場合よりも多くの突然変異を確認。ピロリ菌成分がアルキル化剤系発がん物質の変異原性を増強することも分かりました。なお、同じく消化管にいる大腸菌でも同実験を行ったところ、突然変異は確認できなかったため、ピロリ菌独特の成分と考えられます。
また、ピロリ菌成分を100℃で加熱したところ、変異原性が低下。ピロリ菌の持つ変異原性物質は熱不安定な低分子化合物で、菌体タンパクに付着して存在していると考えられることも分かりました。
<背 景>
これまで胃がん発症とピロリ菌感染は強い相関があること、すべてのがん細胞のDNAには突然変異があることは知られています。また、ピロリ菌が慢性感染すると胃上皮細胞の突然変異率が上昇するという報告もありました。しかし、ピロリ菌は突然変異を引き起こさないと報告もあり、ピロリ菌感染が突然変異を引き起こす機構はわかっていませんでした。
<見込まれる成果>
本研究成果によって、ピロリ菌の変異原性成分がピロリ菌の慢性感染による胃上皮細胞変異&胃がん発症に関与している可能性が示唆されました。今後、胃上皮細胞変異と胃がん発症のメカニズムの解明が進めば、突然変異を阻害する薬の開発が見込まれ、胃がん予防につながると期待されます。
本研究の一部は感染症研究国際ネットワーク推進プログラム(J-GRID)の援助を受けました。
<原論文情報>
タイトル:Mutagenicity and clastogenicity of extracts of Helicobacter pylori detected by the Ames test and in the micronucleus test using human lymphoblastoid cells
著 者:Sakae Arimoto-Kobayashi, Kaori Ohta, Yuta Yuhara, Yuka Ayabe, Tomoe Negishi, Keinosuke Okamoto, Yoshihiro Nakajima, Takeshi Ishikawa, Keiji Oguma and Takanao Otsuka掲載誌:Mutagenesis (2015)
doi: 10.1093/mutage/gev016
発表論文はこちらからご確認いただけます。
(著者:有元佐賀惠1、太田香織2、湯原悠太1、綾部ゆか2、根岸友恵1、岡本敬の介1、中島善洋3、石川 剛4、小熊恵二1、大塚隆尚5 (1岡山大・院医歯薬、2岡山大・薬学部、3松下記念病院、4京都府立医大、5岡山理科大・工))
報道発表資料はこちらをご覧ください
<お問い合わせ>
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科(薬)
准教授 有元 佐賀惠
(電話番号)086-251-7947
(FAX番号)086-251-7947
http://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id288.html
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