昨今の大学改革においては、特に研究力強化や産学連携の促進、人事管理・会計システムの改善などが指摘されることが多いですが、大学病院を持つ多くの国立大学においては、この大学病院の経営を効率化することが大きな大学改革のひとつでもあると思われます。
今回、これまで開催してきた「イノベーションの未来を拓く処方箋シリーズ」の 最終回として、「大学改革は大学病院経営がキモ ~シーズ・ニーズからイノベーション創出を担うHospitalTechの可能性~」と題した対話を本学津島キャンパスで開催しました。
話題提供は、本事業の実施責任者であり、岡山大学の医療系を含めた生命科学系分野の研究力強化を担当している佐藤法仁学長特命(研究担当)・URAが務めました。はじめに佐藤URAは、大学の財務状況に見る大学病院のウェートの高さと大学病院における病院経営全般に関する点などについて紹介。さらに大学病院という「最後の砦」である医療機関における経営の難しさがある点や大学病院に勤務する医療従事者らの労働環境に関連し、労務管理だけでなく、研究力強化促進の観点からみた研究時間の確保の難しさなどについても紹介しました。特に時間の確保の難しさについては、医療のみに費やす時間だけではなく、雑務に費やす時間が多いこと。その時間に費やす労務費は単価の高い医療従事者である点から他の分野と比べて高額になることなどが挙げられました。このような中で佐藤URAは、大学病院の中にあるシーズ・ニーズのマッチからイノベーション創出を担うヒト・モノ・カネが揃う中で、時間を確保することの手始めとして、病院の業務で人でなくても担えるものはできる限りテクノロジーに落とし込めること、そのために病院がテクノロジーのデザイン志向を持って課題をオープンイノベーションで解決するHospital × Technologyの「HospitalTech(ホスピタルテック)」の重要性について、事例をもとに紹介しました。
対話では、病院(Hospital)の課題をテクノロジー(Technology)で解決するHospitalTechに該当する分野の洗い出しやそこに関わる法律や規則などの規制が改革のブレーキとなる面があること、医療従事者とベンチャーなどの企業との関係(特に人と人の付き合い方)などについて、さまざまな課題について議論が交わされました。さらに今回の対話の題名である「大学改革」において、大学病院が担う点がかなり大きいことが再確認され、引き続き、大学病院の改革を行うことで、引いてはそれが大学改革につながることが認識されました。
最後に挨拶した佐藤法仁学長特命(研究担当)・URAは、「大学改革強化の視点から外部資金の獲得を進めることなどが言われる。この点は重要なことだが、大学病院の数ある診療科において、一診療科の運用次第で数千万~数億円の増減が出る。どれだけ外部資金を確保しても吹っ飛んでしまう額でもある。附属病院を持つ国立大学において、病院は財務上、授業料収入に次いで大きなウェートを占めることが多い。企業で言えば中核事業の一つである。企業の運命を左右する中核事業の改革を進めず、経営改革を行う企業がないのと同じように、大学改革における大学病院の改革は極めて重要であり、本学のように改革を進め、黒字化を進める大学は稀である。また大学病院には多くのシーズ・ニーズのマッチングチャンスが眠っており、その新しい開拓分野としてHospitalTechは、大学病院だけではなく、産業界にも大きなチャンスがあり、イノベーション創出の機会、引いてはわが国の産業力活性化になるのではないか」と述べ、今後、大学改革とイノベーション創出における大学病院の役割の重要性について力強くコメントしました。
いま多く注がれている大学改革の取り組みにおいて、大学病院をターゲットにしたものは非常に少なく、またその経営改革の視点としてテクノロジーを駆使した改善と経営改革を担う取り組みも稀だと思われます。多くの規制のしがらみがある分野でもありますが、シーズ・ニーズの宝が眠っている大学病院をうまく使うことで大学改革に結び付け、引いてはわが国を代表するテクノロジー、産業を創出していく可能性を切り開いていくことが重要だと思われます。
国立大学法人岡山大学:http://www.okayama-u.ac.jp/index.html
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