岡山大学中性子医療研究センター(NTRC)は、がんの治療法の一種BNCT(ホウ素中性子捕捉療法、注1)におけるより効果的なホウ素薬剤の開発に向け11月2日、株式会社スリー・ディー・マトリックス(3DM、注3)と共同研究契約を締結しました。
BNCTで使用する、ホウ素元素を12個含むホウ素薬剤BSH(注2)は、過去にBNCTでのヒト臨床試験の実績があります。BPA(注4)と呼ばれるホウ素薬剤と併用してBNCTを行い、その後放射線治療を施すことで、悪性脳腫瘍患者を対象とした臨床研究で著しい延命効果(中央値)を示したことが報告されています。しかしながら、BSHはがん細胞に取り込まれないこと、更にはがん細胞のみに取り込ませることができないことから、その活用が限定されるため、BNCTでの可能性が閉ざされていました。
NTRCは、3DMが提供する「自己組織化ペプチド(注5)」A6K塩酸塩水溶液とBSH水溶液を混合するという極めて簡便な方法を用いて、BSHを効率よくがん細胞に取り込ませることに成功しました。この方法は、岡山大学が単独で特許出願を済ませています。これに際し岡山大学は、3DMと今後の研究開発について協議を行い、その結果、開発を加速して一日も早く新薬剤を患者様に届けるべきとの合意に至り、共同研究契約を締結することとなりました。
ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)と呼ばれる、新しいがん治療法の研究を行っています。「ホウ素」と聞くとホウ酸団子を思い浮かべる方が多いと思いますが、今回発表のホウ素薬剤は、がん治療に使用する新しい薬剤です。早く多くの方に、ホウ素薬剤ががんのお薬として認知されるように頑張りたいです。 また、この分野は化学者、物理学者、生物学者、がん研究者、医療関係者が知恵を出し合って研究を進める分野です。岡山大学内外の研究者でBNCTに興味を持っていらっしゃる方、大歓迎です。皆様と一緒に研究できたら幸せです。ぜひ、声をかけてください。 早くがん治療で困っている方々に新しいホウ素薬剤が届くように頑張りたいと思います。今後ともよろしくお願いします。 | 道上宏之准教授 |
■補足・用語説明
注1:BNCT(Boron Neutron Capture Therapy、ホウ素中性子捕捉療法)
中性子とホウ素原子(10B)が衝突することで大きなエネルギーを生み出す「アルファ崩壊反応」を活用したがん治療法です。あらかじめホウ素薬剤を用いてがん細胞にホウ素原子を取り込ませた後、中性子を照射することで、がん細胞のみにアルファ崩壊反応を起こし、これを破壊します。中性子自体もエネルギーは小さく、正常な細胞へのダメージが少ないため、副作用の少ない「切らずに治す」がん治療となることが期待されています。
注2:BSH
1968 年に初めて使われたホウ素薬剤です(化学名:メルカプトウンデカハイドロドデカボレート)。ひとつの分子に12 個のホウ素原子が含まれ、これらが結晶状の「鳥かご」と呼ばれる構造をつくっています。
注3:株式会社スリー・ディー・マトリックス(3DM)
米国マサチューセッツ工科大学(MIT)からライセンスされた自己組織化ペプチド技術をコアとして、外科領域、薬物送達システム(DDS)領域、再生医療領域において、医療製品の開発に国内外で取り組んでいます。東証JASDAQ 上場(証券コード7777)。
企業 HP:http://www.3d-matrix.co.jp/index.html
※薬物送達システム(DDS):服用した薬剤の体内分布を量的・空間的・時間的に制御し、それぞれの臓器や組織での濃度などをコントロールして、薬の効き目を調節するシステム。
注4:BPA
現在 BNCT に最も多く用いられているホウ素薬剤です。アミノ酸であるフェニルアラニンにホウ酸が結合したボロノフェニルアラニンのことです。ひとつの分子中に1 個のホウ素原子を含みます。
注5:自己組織化ペプチド
株式会社スリー・ディー・マトリックスが提供する機能性のあるペプチド(アミノ酸が複数個結合したもの)群を示します。本共同研究で使用する配列のものは薬物送達システム能力を持ち、医薬品の担体として日本国内での臨床使用実績があります。
<詳しい研究内容について>
がん治療法・ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)の新たな薬剤開発で共同研究契約を締結
<お問い合わせ>
岡山大学中性子医療研究センター
副センター長 古矢 修一
(電話番号)086-235-7785
(FAX)086-235-7784
株式会社スリー・ディー・マトリックス
(電話番号)03-3511-3440
(FAX)03-3511-3402
https://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id577.html
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