2015年4月11日土曜日

【情報発信】食道がんに対する放射線治療を併用した腫瘍融解ウイルス 「テロメライシン」の臨床研究の中間報告(第I報)

岡山大学大学院医歯薬学総合研究科消化器外科学分野の藤原俊義教授、白川靖博准教授らの研究グループは、食道がんに対する腫瘍選択的融解ウイルス製剤「テロメライシン」を用いた放射線併用ウイルス療法の臨床研究を推進。7例の食道がん患者に治療を実施し、その安全性と有効性に関するデータを蓄積しました。本成果は4月19日、米国フィラデルフィアにて開催される第106回米国がん研究会議(AACR 2015)で発表します。

今回でレベル1(低容量)の投与群を終了し、今後、レベル2(中容量)、レベル3(高容量)へと進めていきます。また、岡山大学発ベンチャー オンコリスバイオファーマ(株)と医師主導治験への移行も検討中です。テロメライシンは、手術や標準的な抗がん剤治療が難しい高齢の食道がん患者などで、低侵襲で安全な治療法となることが期待されます。
 
テロメライシン(Telomelysin、OBP-301)は、岡山大学で開発された国産の抗がんウイルス製剤であり、感染したがん細胞を殺傷するとともに放射線に対する感受性を増強することが明らかとなっています。平成25年11月29日から、食道がん患者を対象に、テロメライシンの内視鏡的腫瘍内投与と放射線治療を併用する臨床研究が進んでいます。治療は、第1日目に局所麻酔下に内視鏡を用いて胸部食道の患部に0.2 mlずつ5ヶ所に計1 mlのテロメライシンを投与し、第4日目から週10Gyの放射線治療を6週間、計60Gy実施し、その間に第18日目と32日目にテロメライシンの腫瘍内投与を追加します。

レベル1(1×1010 virus particles(vp);低容量)では、53~92歳の食道がん患者7例に治療が実施され、有害事象としては発熱、食道炎、放射線肺臓炎、白血球減少などが40%以上でみられました。リンパ球減少は全例に認められましたが、放射線治療の中断などで回復がみられています。内視鏡的には7例中5例で腫瘍縮小が認められ、2例では組織検査でがん細胞が消失しました(CR)。本治療前に抗がん剤が使用された2例では、1例が不変(SD)、1例が進行(PD)で試験から脱落しました。


今後は、レベル2(1×1011 vp;中容量)、レベル3(1×1012 vp;高容量)へと進めていき、有効性を検証します。また、オンコリスバイオファーマ(株)と医師主導治験への移行も検討しています。


期待される効果:
がんは1981年以来、日本人の死亡原因の第1位を占めており、国民の健康と安全・安心な社会を確保するためには、既存の治療コンセプトとは異なる革新的な治療技術の開発が不可欠です。テロメライシンは、テロメラーゼ活性を標的とするがん治療を目的とした生物製剤であり、生体内で自立性を持って増殖することによる従来の抗がん剤にない抗腫瘍効果の作用機序を有しています。また、放射線によるがん細胞のDNA損傷の修復を阻害することで、放射線治療の感受性を格段に増強することができます。
今回の臨床研究が順調に進み、標準的な手術や抗がん剤治療が受けられない高齢の合併症を有する食道がんの患者にとって安全で有効な治療法であることが明らかになれば、今後、拡大していく高齢化社会において国民の健康増進や医療経済の節減にも役立つと期待されます。


テロメライシンについて:
 「テロメライシン」は、風邪ウイルスの一種であるアデノウイルスのE1領域に、多くのがん細胞で活性が上昇しているテロメラーゼという酵素のプロモーターを遺伝子改変によって組込み、がん細胞中で特異的に増殖してがん細胞を破壊することができるようにしたウイルス製剤です。「テロメライシン」がヒトのがん細胞に感染すると一日で10万~100万倍に増え、がん細胞を破壊します。一方、「テロメライシン」は正常組織細胞にも同様に感染はしますが、テロメラーゼ活性がないためウイルスは増殖せず、正常組織での損傷は少ないと考えられます。オンコリスバイオファーマ(株)が米国で実施した、がん患者に対する「テロメライシン」単独の臨床試験において、重篤な副作用は認められておらず、投与部位での腫瘍縮小効果などの有効性が認められました。


オンコリスバイオファーマ株式会社について:
オンコリスバイオファーマは、がんと感染症を克服するための新薬開発を行っている岡山大学発バイオベンチャー企業です。主要プロダクトである「テロメライシン」(開発コード:OBP-301)は、現在各種固形がんをターゲットとして米国での第Ⅰ相臨床治験を終了しています。
報道発表資料はこちらをご覧ください


<お問い合わせ>
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科
消化器外科学分野
(電話番号)086-235-7257
(FAX番号)086-221-8775




図1 テロメライシンの作用機序



図2 テロメライシンの放射線増感作用



図3 テロメライシン投与と放射線治療スケジュール

http://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id284.html

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