2018年4月29日日曜日

【情報発信】上斜筋麻痺の斜視手術回数を術前に判断する目安を発表

岡山大学大学院医歯薬学総合研究科(医)眼科学分野の松尾俊彦准教授らの研究グループは、上斜筋麻痺に対する斜視手術回数を予測する因子を調査。斜視検査で測定できる視線のずれ(眼位ずれ)による手術回数の目安をまとめました。本研究成果は2015年4月7日、アメリカのオンライン科学雑誌『Springer Plus』に掲載されました。

1回の手術で矯正が得られた患者群では、手術前の上下方向の眼位ずれの95%信頼区間が15~17プリズム。2回以上の手術が必要となった患者群では、眼位ずれの95%信頼区間が23~28プリズムでした。

手術の見込みについての情報を正確に伝えることは、患者の不安を取り除き、納得した上で手術を受けることにつながります。術前に手術の回数を予測する本研究成果は、今後の眼科医療に大きく貢献することが期待されます。



<業 績>
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科(医)眼科学分野の松尾俊彦准教授らの研究グループは、上斜筋麻痺に対する手術が1回で終わるか、2回以上の手術が必要かについて、術前に予測する因子があるかどうかを解析して報告をまとめました。
1回の手術で矯正が得られた患者群では、手術前の上下方向の視線のずれ(眼位ずれ)の95%信頼区間が15~17プリズムで、2回以上の手術が必要となった患者群では、眼位ずれの95%信頼区間が23~28プリズムでした。
斜視検査で測定できるこの眼位ずれのプリズム値を参考にすることによって手術結果の予測が可能です。つまり、1回の手術で眼位ずれが矯正できるのか、2回以上の手術が必要かを術前に予測することができます(図1)。




図1. 上斜筋麻痺で原因が先天性(特発性)の場合も後天性(外傷性や虚血性)の場合も、1回の手術で矯正が得られた患者では、2回目の手術が必要となった患者と比べて、術前の左右眼の上下のずれが小さかった。

 
<背 景>
眼球を動かす筋肉(外眼筋)は6つあります。水平方向に左右に動かす内直筋と外直筋、垂直方向に上下に動かす上直筋と下直筋、眼球を回す作用のある上斜筋と下斜筋です(図2)。




図2.眼球を動かす6つの筋肉(外眼筋)。左右に動かす内直筋と外直筋、上下に動かす上直筋と下直筋、眼球を回す作用のある上斜筋と下斜筋



両眼の外眼筋が調和を持って動くことによって、両眼が同じ方向を向き、視線がずれずにものが1つに見えます。外眼筋は脳からの神経によって動かされています。外直筋は外転神経に、内直筋、上直筋、下直筋と下斜筋は動眼神経に、上斜筋は滑車神経とつながっています。
上斜筋麻痺は、上斜筋がうまく働かない状態で、先天性と後天性に分かれます。
先天性では、子供が首を傾けてものを見る斜頸という症状で見つかります。これは、首を傾けることによって上斜筋麻痺による複視(ものが二重に見えること)を抑えること(代償すること)ができるためです。大人になって初めて診断される先天性上斜筋麻痺(代償不全型)も、子供のころの写真を確認すると斜頸があり、これらを特発性上斜筋麻痺と総称します。
後天性上斜筋麻痺は、頭部打撲によって起こる外傷性滑車神経麻痺、神経を栄養している血のめぐりが悪くなって起こる虚血性滑車神経麻痺が主な原因です。滑車神経麻痺は、1か月から3か月で自然に回復する場合が多く、半年経っても複視などの症状が残る場合に、斜視手術を行います。

 <見込まれる成果>
上斜筋麻痺に対する斜視手術を受ける患者にとって、手術1回で矯正が得られるのか、2回以上の手術が必要なのかは大きな問題です。
本研究成果によって、上斜筋麻痺で斜視手術を行う場合に、上下方向の両眼の視線のずれが17プリズム以下だと1回の手術で終わる可能性が高く、逆に、23プリズムよりも大きなずれの場合には、2回以上の手術が必要となるかもしれないという予測を術前に説明することができます。手術の見込みについての情報を正確に伝えることは、患者の不安を取り除き、納得した上で手術を受けることにつながります。

<原論文情報>
発表論文:Aoba K, Matsuo T, Hamasaki I, Hasebe K. Clinical factors underlying a single surgery or repetitive surgeries to treat superior oblique muscle palsy. SpringerPlus, 2015, 3, 361; (doi: 10.1186/s40064-015-0945-3)

発表論文はこちらからご確認頂けます。

http://www.springerplus.com/content/4/1/166

報道発表資料はこちらをご覧ください


<お問い合わせ>
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科(医)眼科学分野
准教授 松尾 俊彦
(電話番号)086-235-7297
(FAX番号)086-222-5059
(URL)//www.okayama-u.ac.jp/user/opth/index.htm


http://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id291.html

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