◆発表のポイント
- 母性のホルモンとして知られている「オキシトシン」が、脳から遠く離れた脊髄にまではたらきかけ、オスの交尾行動を脊髄レベルで促進させることを明らかにしました。
- 脊髄におけるオキシトシンの作用はシナプスによる配線伝達(Ethernetと類似していると推測されます)に依存しないという、新たな局所神経機構‘ボリューム伝達’(Wi-Fiシステムと類似していると推測されます)を解明しました。
- オスの交尾行動を調節する脳-脊髄神経回路が明らかになったことから、今後、心因性の勃起障害などの性機能障害の治療法の開発に寄与することが期待されます。
岡山大学大学院自然科学研究科(理)の坂本浩隆准教授と神奈川大学理学部生物科学科の越智拓海特別助教(研究当時、大学院自然科学研究科院生)、川崎医科大学、富山大学、国立遺伝学研究所、米国エモリー大学、英国オックスフォード大学の国際研究グループは、脳で合成される母性のホルモン、「オキシトシン」が哺乳類の脊髄に存在する勃起/射精専用回路(性機能センター)を活性化させ、オスの交尾行動を促進させることを明らかにしました。これらの研究成果は、日本時間10月30日0:00(米国東部時間10月29日11:00)、米国のCell Pressより発行されている科学雑誌「Current Biology(カレントバイオロジー)」に掲載されます。
これまで脊髄の性機能センターが脳からどのようにコントロールされているのかはわかっていませんでした。今回、間脳視床下部に存在するオキシトシン・ニューロンが、脳から遠く離れた脊髄まではたらきかけ、脊髄レベルでオスの交尾行動を促進させることを明らかにしました。
さらに、この脊髄におけるオキシトシンの作用は、いわゆるシナプス結合を介した‘配線伝達’ではなく、オキシトシンによる新たな局所神経機構‘ボリューム伝達’ を介したものであることも明らかにしました。
この新たな脊髄内局所神経機構は、Wi-Fiとシステムが似ており、シナプスによる‘配線伝達’を‘Ethernet’と喩えるならば、‘ボリューム伝達’は‘Wi-Fi’と喩えることができるかもしれません。
本研究成果により、オスの性機能専用の脳-脊髄神経回路とその調節メカニズムが明らかとなり、今後、心因性の性機能障害の治療法の開発に寄与できることが期待されます。
◆研究者からのひとこと
ラットの交尾行動を調節する神経機構(ボリューム伝達)に、‘Wi-Fi’
のようなシステムが使われていることに大変驚きました!まだまだ分からないことは山積みで興味は尽きませんが、私たちの体の中にも最近ハヤリのWi-Fiシステムのようなものがずっと昔から活躍していたのかもしれませんね? 今回、オスの性機能をコントロールしている新たな神経機構を発見できたことから、男性性機能障害の治療法の開発に寄与することも期待できます。皆様の健やかな生活の実現に向けて、これからも研究活動をますます頑張ります。 | 坂本浩隆准教授 |
■論文情報論 文 名:Oxytocin influences male sexual activity via non-synaptic axonal release in the spinal cord.
「オキシトシンは新たな局所神経機構‘ボリューム伝達’を介して脊髄レベルでオスの性的活性を高める」
掲 載 紙:Current Biology著 者:Takumi
Oti, Keita Satoh, Daisuke Uta, Junta Nagafuchi, Sayaka Tateishi, Ryota
Ueda, Keiko Takanami, Larry J. Young, Antony Galione, John F. Morris,
Tatsuya Sakamoto, Hirotaka SakamotoD O I:https://doi.org/10.1016/j.cub.2020.09.089
<詳しい研究内容について>
母性のホルモン:「オキシトシン」がオスの交尾行動を脊髄レベルで促進する新たな局所神経機構‘ボリューム伝達’を解明
<お問い合わせ>
岡山大学大学院自然科学研究科(理)
理学部附属臨海実験所
准教授 坂本 浩隆
(電話番号)0869-34-5210
(FAX番号)0869-34-5211
http://www.science.okayama-u.ac.jp/~rinkai/index.html
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