◆ポイント
- アジア稲とアフリカ稲の雑種から新種の稲の作出に成功。
- 染色体を倍加した花粉が異種間の生殖障壁を打破できることを発見。
- 多様な環境における稲の栽培化に期待。
北海道大学大学院農学研究院の貴島祐治教授と同大学院博士後期課程の國吉大地氏,北海道大学北方生物圏フィールド科学センター,酪農学園大学農食環境学群,九州大学大学院農学研究院,岡山大学資源植物科学研究所の共同研究グループは,アジア稲(Oryza sativa)とアフリカ稲(O. glaberrima)の雑種由来の花粉から,両種のゲノムを保持する新しい稲を作出しました。
二つの稲の間には種の壁(生殖障壁)があり,交配しても種子をつける雑種植物はこれまで得られていませんでした。この生殖障壁は雑種植物の花粉と卵が正常に発育しないことに起因します。本研究では,アジア稲とアフリカ稲の雑種植物から崩壊前の花粉を持つ雄しべ(葯)を取り出して,葯培養を施すことにより,花粉から19の植物体を作出することに成功しました。植物体に分化した個体のゲノムは,アジア稲とアフリカ稲それぞれから構成されており,19株のうち5株は種子を作る能力がありました。驚くことにこの5株は全て親個体の2倍のゲノムを有する4倍体でした。
アジア稲とアフリカ稲の雑種植物では花粉を作るときの減数分裂の過程で染色体数が減数しない異常が起きていました。4倍体の個体は,この異常によって染色体が通常の花粉の倍の2倍性花粉が生じ,それが植物体に分化したものでした。本来,減数分裂の異常は花粉の正常な生育を阻害します。しかし,減数分裂の異常で生じた2倍性の花粉を葯培養することで,生殖障壁を回避して種子を作る4倍体の稲が生まれました。得られた4倍体の稲は遺伝子組換え技術を用いずに作出されたものです。この実験結果は,植物の進化において倍数化が新しい種の発生に重要な役割を担ってきた事実を証明したことになります。
なお,本研究成果は,日本時間2020年11月5日(木)午後2時(グリニッジ標準時2020年11月5日(木)午前5時)公開のFrontiers in Plant Science誌に掲載されました。
■論文情報
論
文 名:Diploid male gametes circumvent hybrid sterility between Asian and
African rice species. (2倍体雄性配偶体はアジア栽培稲とアフリカ栽培稲の間の雑種不稔性を回避する)
掲 載 紙:Frontiers in Plant Science(植物科学の専門誌)
著 者: 國吉大地1,増田 到1,金岡義高1,島崎優樹1,小出陽平2,高牟禮逸朗2,貴島祐治2,星野洋一郎3,岡本吉弘4,安井 秀5,山本敏央6,長岐清孝6(1北海道大学大学院農学院,2北海道大学大学院農学研究院,3北海道大学北方生物圏フィールド科学センター,4酪農学園大学農食環境学群,5九州大学大学院農学研究院,6岡山大学資源植物科学研究所)
D O I:10.3389/fpls.2020.579305
<詳しい研究内容について>
アジアとアフリカを跨ぐ新種の稲を花粉から作出~染色体を倍加した花粉が異種間の生殖障壁の解消に役立つ~
<お問い合わせ>
岡山大学資源植物科学研究所
教授 山本敏央
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